2017年1月20日金曜日

ある日の日記



昨日は閉店1時間前の19時くらいに、あるカップルのお客様が突然店に訪れた。初めてのお客様だ。「あんまりこれくらいの時間帯に初めてのお客様は来ないのだけどな・・・」なんて思いつつ、様子を見ていたらば、なんというかどうも見れば見るほど、普段のうちのお客様のラインとまったく違うというか、二人とも年齢が若めだったからかもしれないけども、「もしかしたら店を間違って入っちゃったのかしらん」と思える様な二人に見えて来た。なんせ男の子の方はキャップを後ろに被っちゃってるし、女の子の方もちょっとエクステオーバー気味なギャルルルル的かわいさが垣間見えて、なかなかうちの店には来ないタイプの方たちなのであった。まぁなんつっても典型的差別的なダメ店員ですからね、僕は。

そうはいっても、現在店では来ていただいたお客様にチョコやジャムの試食をしていただいていて、こういうラインが一番難しい。うちの店は大抵SNSなんかで現在の状況を知っていらっしゃる方が来られることが多いので、あんまり飛び込みの方は多くないのだ。しかもここでヘタに試食をしていただき迷惑がられてもなんともアホな店員だしなぁ。「うーん、これはどうしたものか・・・」とPCをいじくるフリをしながら考えていると、勝手に失礼ながら驚くことに「ひとまず、これ。ください」と言って、男の子の方が金澤宏紀くんのカップをレジに持って来た。そして「ええと、他も見ますから、ちょっと待ってくださいね」なんてセリフを落としつつ、二人して他の商品もあれこれ見てくれている。結局のところ聞いてみれば、どうも男の子の方の働く会社がこの近くにあって、よく店の前を通っており、前から気になっていたのだそうだ。そうして今日、思い切って入ってみたのだと。「あいたたた・・・。すまぬすまぬ」と椎名誠的になって、あわててコーヒーを淹れて、チョコとジャムの試食をゆっくりしていただいた。結果的にすごく気に入っていただき、チョコやジャムだけでなく、女の子には木ユウコさんのカップまで買っていただき、典型的良くない差別的なこの店主は猛省したのであった。まぁかのように接客とは難しいが、興味深くかつ面白愉しいのですね。




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なんとなく嬉しくなった僕は、その足でひとりで『Peg』に行った。知ってる人ももはや多いと思うが、『Peg』といえば、自分のなかで現在この地でいちばんヒップでハイブロウで段違いにぶっ飛んだビストロであって、ここの何が凄いって食材やワインまですべてもすべてオーガニックで厳選しながら、まだ若き希望に満ち満ちたひとりの青年がたったひとりで店を切り盛りし、芯に貫かれたフランス仕込みの料理をきっぱりと出すところだ。しかもその若者はどうやらスケーターと来てる。「ストリートとフレンチとオーガニック」という組み合わせだけでもう持ってかれなければ、たぶん僕はそのひとのセンスを信用はしないだろう。といって僕もまだこれまでに3回くらいしか行っていないし、その青年であるひろみくんとはまだそんなに知り合いでもないのだけど、なんで勝手にひろみくんとここで書いちゃうかといえば、なんせその名は偶然僕の奥さんの名前でもあるからで、なんだか勝手に近いのだ。そしてこの若き創り手はオーガニカルな野菜の創り手の話になるともうアツくなってアツくなって止まらないところも完全に好感が持てて持てて仕方ない。僕も以前からそんなひとたちの仕事ぶりを取材しているので、あまりにいろんな話に頷けてしまうわけで。



そして更にデカいのが店に流れている音楽で、ある時はディープ&ディープなルーツレゲエであったり、昨日は昨日でつい先日僕も自分の店でかけて実はこころで泣いてたダニー・ハサウェイのアルバム(あのライヴアルバムな。リトル・ゲットー・ボーイな!)が偶然かかっていたりと、まぁなんだかここまで来るとそんなに話さなくても絶対通じる間違いない感があるというか。そういえばあんまり嬉しくなって最近ハマってるバンドの動画なんかも勝手に見せちゃったり(なんだかこの心地よいヴァイヴって勝手に『Peg』っぽい)。もうすぐ始まる企画展のDMを渡す目的もあったのだけど、でもひとりでふらりと行って、分厚くて限りなくナチュ甘ウマい「ごぼうのバルサミコ煮」やら生命の詰まった「野菜と豆のスープ」やらを食べながら、これまたガチでナチュナチュな果実味溢れんばかりの数々の自然派グラスワインを飲み干しては4000円いかないくらいなんだから、こりゃ誰だって通うだろうと。でも通っちゃったらばますますひろみくんひとりで大変なんだが、でもやっぱり通うだろうなぁと。昨日は黙ってひとりで行っちゃったから、“飲み友久朋”ことカメラマンのえとうくんにはラインで怒られつつ。





それにしても現在、店で置かせていただいてる「ジャムのようななにものか」を産み出す、阿蘇の『オルモコッピア』の二人もそうだけども、ここ熊本でも若い人たちのお店でオーガニックをベーシックに据えた店も増えて来た。ここで勝手に自分で判断してしまうと、きっと彼らは言って見れば「ネクストオーガニック世代」みたいな感じで、あくまで堅苦しくない考えで当たり前のようにナチュラル思考をナチュラルに展開し貫いている。素材はできるかぎり自分の限界までこだわるが、だからといってそれをさも「こうあらねばならぬ」みたく押し付けたりしないし、なんせ一番大切なのは心地よく店で過ごしていただけること、つまりは心地よい店とお客様との関係性である、と知っている気がする。そこには店自体の雰囲気ももちろん関係するし、何より料理を産み出す創り手側がその仕事に誇りと愉しみをしっかり持っていないと本当の意味で心地よくなくね? みたいなことをしっかり本能的に分かっている気がするんである。だってお店側が「絶対こうじゃなきゃおかしいですって。絶対こうあるべきなんですってば。それ以外の考えはおかしいんですってば」みたいに頑過ぎたり、「イヤだなぁ、やりたくないなぁ、愉しくないなぁ」とか思っていたらば、どんなに材料にこだわっていても本当に心地よい場になれるわけがない。料理だって本当の意味で美味しくなるわけがない。

で、いつも思うことなのだけど、これはなにも店だけでなくってどこぞの会社や企業にも通じる話であって、やっぱり心地よい関係性を大切にする会社や企業は、心地よい仕事を産み出しているように思う。そこは実をいうと家庭も同じかもしれない。なんかほら、例えば他人の夫婦や家族と短い時間でも一緒に居ると心地よいかどうかすぐ分かってしまったりしません? そこの家庭の夫婦の雰囲気や子どもと親の関係性を直に感じれば、なにかが分かってしまったり。そういう目に見えないヴァイヴのようなものこそは、ちゃあんと伝わる人には伝わっているし、ばれちゃうひとにはばれちゃうんである。して、すごいのはそういうヴァイヴというのは、感じ取れている周囲のひとびとには少しずつだけど確実に伝わって行くので、心地よいヴァイヴを持ったサークルがそこに描かれることになるということ。だんだんと広がっていくのですね。もしかしたら昔の古き良き商店街って、そういうものだったのかもしれないなぁとも思ったり。いずれにしても店って、それがどんな店であっても実はそんなヴァイヴの伝え手というか担い所になれるんじゃないかな、と思っている。うちの店もそんなヴァイヴを少しでも発信できていればいいのだけど。どうなんだろうか。

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